로그인高校受験に失敗した俺は、 過去を知る人間のいない新設高校で、 **「目立たず、当たり障りなく生きる」**ことを選んだ。 毎朝一番に登校し、ひとり静かに机に向かう。 勉強だけに集中し、大学進学だけを目指す―― それが、再出発のために立てた唯一のルールだった。 だが、その日常は一人の少女によって崩れる。 校内で誰もが恐れるヤンキー集団の中心に立つ少女。 なぜか俺の前では、不器用な優しさを見せた。 避けていたはずの人間関係。 気づけば俺は、 彼女と、仲間と、そして“過去の自分”と向き合うことになる。 これは、地味な優等生と、最強のヤンキー少女が出会って始まる、 少し不器用で、まっすぐな青春ラブコメディ。
더 보기今は昔――。
ふと目を覚ますと、そこは二十数年前に通っていた高校の教室だった。 夢にしては妙にリアルで、机の木目のざらつきが掌に伝わり、窓から差し込む朝日の眩しさに思わず目を細めてしまう。耳に入ってくるのは、まだ誰もいない校舎特有の、遠くで鳴る足音と、換気扇の低い唸りだけだった。教室内をゆっくりと見渡す。
どうやら高校に入学して、まだ数日しか経っていない頃らしい。 窓際に陣取っているヤンキー連中の机が、妙に綺麗なままだったからだ。 彼らが机に落書きを始め、脚を蹴って歪ませ、天板に無数の傷を刻み始めるのは、もう少し後の話だったはずだ。この高校は、俺が入学する年に新校舎が完成した。
新品の机と椅子。まだ誰の汗も染み込んでいない床。微かに残る、木材とワックスの匂い。 あの「新しい場所に放り込まれた」独特の感覚を、俺は今でもよく覚えている。俺は毎朝、誰よりも早く学校に来ていた。
通勤ラッシュで混み合う道路を避けるため、少し早めに自転車を飛ばし、校門が開く時間に合わせて登校する。 日直が来る前に教室の掃除を済ませ、ひとりきりの教室で予習をする。 それが、高校に入ってからの習慣になっていた。家で机に向かうより、ずっと落ち着いた。
家では、いつも誰かの視線を感じていたからだ。 具体的に何かを言われるわけでもない。 ただ、背中に貼り付くような、無言の圧。集中しようとすればするほど、思考が散っていくあの感覚。 あの場所では、どうしても長く机に向かっていられなかった。……俺は、高校受験に失敗した。
もちろん、原因は自分にある。努力が足りなかった部分もあるし、判断を誤った部分もある。
けれど、それだけではなかった。中学時代、俺は自分でもどうにもならない何かを、ずっと抱え込んでいた。
逃げ道の見えない迷路に閉じ込められ、出口を探しても壁にぶつかるだけ。誰にも打ち明けられず、誰にも理解されないまま、ただ時間だけが過ぎていった。 あの頃の自分を、今でも夢に見ることがある。 だからこそ、この高校では心機一転、勉強にすべてを注ごうと決めた。 幸い、中学の同級生は一人もいない。過去を知る人間はいない。ここでは、受験に失敗した過去に縛られることなく、これから先の自分として歩き出せる。
大学合格という、明確な目標に向かって走るには、これ以上ない環境だった。「とん、とん」
肩を軽く叩かれ、俺は振り返った。
そこに立っていたのは、メガネをかけた小柄な女子生徒だった。 少しだけ寝癖の残った髪を気にするように押さえながら、屈託のない笑顔を向けてくる。「かずくん、おはよう! 今日も一番で勉強? すごいね、ほんと頑張ってる」
「いやいや。家だと落ち着かないだけだよ。ここだと集中できるんだ」そんな他愛ないやり取りが、いつの間にか毎朝の風景になっていた。
同じクラスには、俺が勝手に「勉強仲間」と呼んでいるメンバーがいる。 大学進学を目指す連中が自然と集まり、模試や参考書の情報を交換し合う。彼女もその一人だった。 気づけば、朝に顔を合わせて話をするのが当たり前になり、放課後に一緒に残って勉強することも増えていた。恋愛感情というほど明確なものではない。ただ、確実に、俺にとって欠かせない存在ではあった。
クラスというのは、小さな社会の縮図だと思う。 気の合う人間もいれば、どうしても距離を取りたくなる人間もいる。 そうやって、人は人付き合いを学びながら、少しずつ大人になっていくのだろう。とはいえ、できれば面倒事は避けたい。
特に、窓際に陣取っているヤンキー連中だ。 当時の高校生といえば、リーゼントを固め、ペラペラの学生鞄を小脇に抱え、廊下の真ん中を肩で風を切って歩く――そんなイメージがまだ色濃く残っていた。 もし目をつけられてパシリにされたり、カツアゲを食らったりしたら。 考えるだけで、胃の奥がひやりとする。だから俺は決めていた。
目立たず、当たり障りなく。 それが、俺の高校生活のモットーだった。……そう思った矢先、目の前の光景が、ふっとかき消える。
黒板の上の時計を見ると、針はもうすぐ八時を指していた。 これから、チャイムが鳴り、担任が入ってきて、同じような一日が始まる。 さっきまで見ていた光景も、このあと、まるでなぞるように繰り返されるのだろうか。――いや。
人生は、そんなに単純にはできていない。 人の縁というものは、絡み合い、ぶつかり合い、ときに思いもよらない方向へと転がっていく。 避けていたはずの場所に立たされ、関わるつもりのなかった人間と深く関わることになる。 そんな縁に押し出されるようにして、俺と、俺に関わった人たちの物語は、静かに――しかし確実に、動き始めていくのだ。俺の名前を呼んだのは、ヤンキーたちが「なつさん」と呼んでいる、隣のクラスのヤンキー姉さんだった。 身長は俺より少し低いくらい。 たぶん百七十センチ前後だろう。 視線が合った瞬間、背筋がビクリと跳ねたが、緊張のせいで顔の細部までは認識できなかった。 代わりに視線を落とすと、ひざ下まであるロングスカートと、入学からまだ三か月だというのに完全に潰れ切った上履きの踵が目に入る。 形を成していないそれは、まさに「ヤンキーアイテム」としての存在感を放っていた。 彼女が俺の名を呼んだ瞬間、勉強仲間は全員、反射的に俺から距離を取った。 パッと見ただけで分かる、完全なる「関わりません」のポーズ。 まるでパブロフの犬だ。 条件反射にもほどがあるだろ。 気がつけば俺だけが取り残され、彼女がこちらへ迫ってくるのを待つ形になっていた。 パタパタと上履きを鳴らし、肩を左右に揺らして歩いてくる。 笑顔を浮かべているのに、それが逆に恐怖を増幅させる。 教室全体の空気が、一気に重くなった。 中学時代、男子ヤンキーと口論になったことはあったが、女子ヤンキーと正面から対峙するのは慣れていない。 いつの間にか、背中は汗でじっとりと濡れている。「おまえが高松和也か」 俺のすぐ後ろに立った彼女が、低い声で確認する。 俺は後ろを向いて答えた。「そ、そうですけど(いや、知ってるくせにその確認必要?)」「ちょっと顔貸してくんねぇ」「……なんでしょうか」 彼女は周囲を一瞥し、さらに声を落とす。「ここじゃ面倒くせぇから、ちょっと来いや」「いや……嫌なんですけど」「来いって言ってんだよ!」 胸ぐらをつかまれ、至近距離で怒鳴られた瞬間、教室は水を打ったように静まり返った。 誰一人口を開かない。 咳払いすら聞こえない。 たぶん、誰もが息をする音すら殺していた。 俺は知っている。 こういう場面で逆らえば、尾ひれがついて噂になり、話は思わぬ方向へ転がる。 中学で何度も痛い目にあった経験が、ここは従った方がいいと告げていた。「……了解です」 しぶしぶ立ち上がると、椅子を引く音だけがやけに響く。 彼女はうなずき、出口へ向かった。俺も仕方なく後を追う。 途中、多江ちゃんと目が合った。 俺が「大丈夫だ」と目配せすると、多江ちゃんは小さくうなずき、ほかの仲間たち
俺たちが通っていた進学塾『浦和ゼミナール』は、県内でも最大規模を誇る現役高校生用の塾だった。 入口のガラス扉には、いつも新しいチラシが貼られている。 そこには毎年のように「東大○名、早慶○名」と、やたら景気のいい数字がでかでかと踊っていた。 まるで夢の切符を配っているみたいに。 ……もっとも、その「夢の切符」を本当に受け取れるのは、県立浦和や一女、大宮、市立浦和みたいな、県内でも屈指の進学校の生徒たちだ。 つまり俺たちみたいなその他大勢がどれだけもがいたところで、結局はそれなりの大学に落ち着く。 そういうものだ――と、俺はずっと思い込んでいた。 ただ一人、例外がいる。 勉強仲間の中で唯一、進学校出身の小倉多江ちゃん。 彼女だけは、俺たちの中で別格の存在だった。 俺の高校生活の目標は単純だ。 名の知れた大学に引っかかれば御の字。 それに加えて、自分のやりたいことを学べる学科があれば言うことなし。 当時、うちの高校の名前を出すと、決まって「大鳳? ああ、あの田んぼの中の」と返された。それが世間の大鳳高校の扱いだった。 根拠のない偏見だと頭では分かっているのに、そういう言葉に俺たちは簡単に一喜一憂してしまう。 大学に進んだら、趣味と勉強を両立して、いずれは家業を継ぐんだろう……そんな未来を、ぼんやり思い描いていた。 結論から言えば、まったく違う人生になったわけだけど。 さて、『浦和ゼミナール』から二軒隣に『バーガークイーン』というハンバーガーショップがあった。 俺たちの定番の溜まり場である。 授業が終わるのは夜の九時ごろ。街の空気が冷えてきて、店のガラス窓が外気で少し白く曇る時間帯だ。 店内は脂とコーヒーの匂いが混じっていて、妙に落ち着く。 騒がしいはずなのに、ここにいると「学校の息苦しさ」が一枚、剥がれる感じがした。「ねぇ、かずくん。さっきの化学の問題なんだけど、ここがどうしても分かんなくて」 多江ちゃんは、塾で配布されたプリントを広げて俺の前に置く。 インクの匂いがまだ新しい。 その指先が、ほんの少し震えている。 たぶん寒さのせい……と言いたいけど、違う。 多江ちゃんは、こういうときだけ妙に真剣で、肩に力が入る。 分からないところを「分からない」と言うのが、彼女にとっては簡単じゃないのだと、俺は知っている。
毎日がこんな調子なら、そりゃあ心も擦り切れる。 クラスでの俺の立ち位置は、いわば防波堤だ。 ヤンキーの冷やかしや無茶ぶりを真正面で受け止め、仲間を守る壁。 ……なんて格好いい言い方をすれば多少は気が晴れるけど、実際はただのサンドバッグでしかない。 笑って流す。黙って耐える。やり過ごす。 その繰り返しで、気づけば一日が終わっている。心が削れていく音が、自分にだけ聞こえる気がした。 だから俺は、一刻も早く学校から離れたかった。 終業のチャイムが鳴った瞬間、誰よりも速く廊下を抜け、玄関からバス停へ一直線――そうしたいのに、結局バス停では発車まで待ち時間がある。 その待ち時間が、地味にきつい。 誰かと鉢合わせるかもしれない。 目が合うかもしれない。声をかけられるかもしれない。 「かもしれない」だけで胃が縮む。 ……つまり全力で逃げても、ゴールは地獄、みたいなオチが待っているわけだ。 そこで俺は親に頼んで、自転車を買ってもらった。 「勉強も大事だし、塾にも通うから」 そう説明すれば、親も納得してくれた。 実際、その理由は嘘じゃない。 高校に入ってから週三で通い始めた進学塾が、南浦和駅の近くにあったからだ。 浦和駅前はオフィス街で、塾が少ない。 南浦和のほうが学生向けの進学塾が充実している。 バスだと浦和駅でいったん降りて乗り換え――それを考えると、駅近くの駐輪場に止められる自転車のほうが、ずっと現実的だった。 自転車通学を始めると、勉強仲間も次々に真似してきた。「かず、バスはやっぱ危険地帯だよな」「だろ? こっちの方が安全だし、自由だし」 そう言って俺たちは揃ってペダルをこぎ、放課後は一緒に塾へ向かうようになった。 片道数十分の距離が、ヤンキーとの鉢合わせに怯える恐怖と比べれば天国みたいに感じたのだから、我ながら単純だ。 後に晏菜から聞いた話だが、浦和大鳳高校は入試の得点分布がきれいな二極性を描いていたらしい。 成績の良い層と悪い層が、見事に割れている――という意味だ。 晏菜の情報網の広さは相変わらず謎だけど、聞いて納得だった。 確かに、俺たち勉強組とヤンキー軍団の学力差は天と地ほどある。 校内の空気で言えば、トップは当然ヤンキーで、次が部活で青春を謳歌する『中間層』。 井上さんなんかは完全にそっちのグループだ
入学して数日が経つと、ようやく教室の空気にも慣れてきた。 とはいえ「慣れた」というのは、危険がないと理解できたわけじゃない。 単に、危険がどこに潜んでいるかを身体が覚えただけだ。 教室の後ろの壁には、拳大にへこんだ跡が残っていた。 誰にも聞いていないが、聞く必要もなかった。 誰かが、何かの拍子に、そこへ拳を叩きつけたということだけは、傷そのものが雄弁に語っていた。 担任も、それについては何も触れない。触れないという選択そのものが、この教室の力関係を物語っているようだった。 ヤンキーたちの視線をなるべく避けながら、それでも俺と同じように大学進学を目指すやつらが何人かいることが分かった。 俺は彼らを心の中で「勉強仲間」と呼び、自然と一緒に過ごす時間が増えていった。 勉強の話ももちろんする。 でも、話題の中心はいつだってひとつだった。 ――いかにしてヤンキーたちと関わらずに済むか。 いや、むしろそれが最重要テーマだったと言っていい。 触らぬ神に祟りなし。俺たちはただ静かに、そして目立たず、この三年間をやり過ごす……はずだった。 まず最初に仲間となったのは、坂本巧。偶然にも彼の兄と俺は小学生の頃から趣味仲間で面識があった。 その縁もあって、坂本とは最初から妙に自然と距離が縮まった。「おう、高松。よろしくな」 初対面のはずなのに、すでに「知ってるやつ」みたいな温度で話しかけてくる。 その雑さが、逆にありがたかった。 次に佐々木大輔。元気いっぱいでクラスのムードメーカー……と言えば聞こえはいいが、声が無駄にでかくてデリカシーが薄い。 本人は悪気がないのが厄介で、ヤンキーの神経を逆なですることが多い。俺たちにとっては常に地雷を抱えているようなものだった。 |鵜坂《うざか》博之は、この高校の目と鼻の先にある大久保中学の出身で、実家がこの周辺に多くの田畑を持っているらしい。 牧野宏は浦和駅から京浜東北線で北へ二駅の与野駅前で中華料理屋を営む家の息子。 雨宮さくらちゃんは坂本と同じ中学出身で、後に――まあ、それはまた先の話だ。 そして、小倉多江ちゃん。 多江ちゃんについては、のちほど詳しく説明する。 なぜか俺は女子にだけ「ちゃん付け」で呼んでしまう癖がある。 多江ちゃんも、さくらちゃんも、それが自然に口から出た。 自分でも理由